PSOというオンラインゲームでネカマしてたら告白された話

今日は少し、昔のことを語りたいと思う。

もう随分と前の話で遠い過去の思い出なんだが、時々どうしても思い出してしまうことがある。
当時の記憶なんてほぼ覚えていないくらいに薄れてしまっていて、断片的に写真のような映像を思い出すくらいだけど、とある事柄に関しては、未だにハッキリと思い出すことができる。
私がオンラインゲームをしていた中での一番の過ちと言ってはなんだけど、もの凄く後悔していることがある。
過ちというか、私が浅はかな考えで起こしてしまった悲劇だ。

私はひょんなことから、初めてプレイしたPSO(ファンタシースターオンライン)というオンラインゲームでネカマとしてプレイしていた。
その”ひょんなこと”を詳しく書くと、凄く長くなるのでここでは割愛する。
簡単に言うと、女性と間違えられ、そのことにより一時的に得をし、そのままズルズルと訂正する機会を失ったままプレイしていたのだ。
その時はまだ、それが自分の首を絞めていく行為だということを、1ミリも考えもしなかった。

女性として扱われるようになった当時の私は、「別に男だろうと女だろうとゲームを楽しんでいるんだから一緒だろう」という考えで特に性別に関してまったく意識していなかったし、気にもしていなかった。
あの頃のオンラインゲームは、リアルのことに触れるのはタブーのように扱われ、誰も自分のリアルの素性は話さなかったし、聞いたりすることもなく、あの空間においてのそれは”暗黙の了解”だった。

今でこそSNSやVCツールなどが発達し、ゲーム内とリアルがリンクしやすい環境で、そういった考えはかなり薄れつつあると思う。
まだ私のようなオッサン世代にはやはり抵抗感はあるものの、メールアドレスやLINEを交換することも、もはや普通になってきている。

しかし当時はまったくそんなことはなかった。
つまり、ゲーム内での立ち振舞や言動ですべてが決まるわけだ。

私が、「あの人は女性なんだ」と思えばそれは女性になり、「年齢はこれくらいなのかな」と思えば、それくらいになる。
その人の人物像はすべて想像で決まり、答え合わせは”暗黙の了解”によりもちろんないのだ。
そんなリアルとは隔離されたまったくの異空間が私は凄く心地よかったし、だからこそ、ゲームにグイグイとのめり込んだ。

その当時、私には凄く仲の良いフレンドがいた。
私が熱心にプレイしていたゲームモードで、同じように彼も熱中していた。
同じ嗜好だったのですぐに気が合い、よく2人でそのモードで遊ぶことが多くなった。

私が女キャラクターを使っていて、一人称は”うち”だったので、彼はすぐに私を女性だと認識した。
ネカマと言っても、キャピキャピした女の子キャラを演じていたワケではなく、かなり素でプレイしていた。
素を出していたからこそ、女性という部分が露骨に出ることもなく、ある意味よりリアルに認識していったんだと思う。
「ガンガン言いたいことを言って、グイグイ引っ張っていくキツメ女子」といったイメージだったのではないだろうか。

だからといって、彼はリアルに触れてくるようなこともなく、あの異空間でごく自然に仲良し2人組という関係になっていった。
“暗黙の了解”はお互い堅守しており、男女なんてこの異空間においては些細なことだと思っていたので、その間違いを訂正することもなく3年という月日が流れていった。

その間に、プレイしていたPSO(GC版)がサービスを終了し、PSU(ファンタシースターユニバース)へと移行していた。
その頃になると、携帯電話もかなり普及しており、私も彼も携帯電話を持つようになっていた。
さすがに3年も経つと、”暗黙の了解”はあったものの、お互いのことを少しは知る関係にはなっていた。だけど、私が男だということをまだ彼は知らなかった。
お互い学生で同い年くらいであり、関西に住んでいるということや、兄弟がいることは知っていたが、性別だけは誤認したままだった。

そんな時、彼から「メールアドレスを交換しないか?」という話をされた。
ゲームができない日や、時間が合わない時など連絡が取れれば、お互いすれ違うこともなくなるからどうだろう?という提案だった。
たしかに時間が合わない時などは、待ちぼうけることもあり、その言い分は納得できるものだった。
私は戸惑いながらも、メールアドレスならいいかと安直に考え、ある種の一線を超えてしまった。

つまり、リアルとリンクするようになったのだ。
しかし私はそうなった時も、男であることを訂正しなかった。
今になって思えば、このタイミングが”男”であるということをカミングアウトするラストチャンスだった。

だが、3年という月日を一緒に遊んで、ここまで来て「いや、実は男なんだw」なんて言えるだろうか。
私にはどうしてもそれは無理だった。すでにこの時、もう後には引けなかった。

少しずつ、隔離されたはずの異空間が、音をたてて崩れはじめていた。

・・・そして、その日は唐突に訪れた。

ゲームへログインすると、彼からゲーム内メールで「マイルームに来てくれ」と呼び出しがあった。
マイルームとは、アカウントごとに自分の部屋が与えられており、自由にコーディネートできる空間のことだ。
お互いのマイルームでよく雑談などをしてはダベり、おもちゃのような家具などを置いて遊んだりしていた。

彼のマイルームに行くと、彼はイスに腰掛けてポーズを取っていた。
「こんちゃ~、今日はどこいこうか」私はいつものように挨拶と、何をして遊ぶかを投げかけた。
「ちょっとまって、実は携帯がなくなってしまって見つからない」と彼は言った。

そして彼はこう続けた。
「ちょっと携帯鳴らしてみてくれない?」

メールはお互いが文でやり取りするため、携帯電話というリアルな部分が介入しているが、まだそれはチャット、つまり電子の域を超えない代物だ。
しかし電話となると、これはもうお互いの声が入るため、完全なるリアルへのリンクとなる。
彼は”暗黙の了解”という絶対領域の盾を、”携帯がなくなった”という緊急事態の矛を使って、強引にこじ開けようとしてきたのだ。

これはマズイと思った。

携帯を鳴らすことは簡単だ。なぜなら私も携帯を持っている。それは彼も当然知っている。
だが、仮に彼から携帯の番号を聞いて掛けたとして、もし着信に出たとしたら・・・。掛けてこられたりしたら・・・。

色々と考えたが、さすがにその一線は超えることは出来ないと思ったので「しっかり探して!」と再度捜索するように促した。
思いつく限り携帯がありそうな場所を挙げていき、提案していった。

「うーん、ないなぁ」横目でチラッとこちらを見るような、そんなふうに言ったように感じた。
ついに彼は強引に、「この番号に電話をかけてほしい」と携帯番号をチャットに書き記し、緊急事態という矛を私に突き刺した。

焦りで鼓動が激しく鳴り響いていた。
ここで全てをカミングアウトするのか?いやまて、さすがにそれは・・・。
なんとか断るしかない。そう思った。いよいよ自分の首が絞まっていくのを感じていた。

「さすがに電話は出来ないよ、ごめんね」そう言った。
彼は残念そうに「まじか><」と言って、もう一度携帯を探し始めた。

すると5分も経たないうちに、「あった!ゴミ箱にあったよ^^」と戻ってきた。
え?ゴミ箱・・?

携帯ってゴミ箱に入ることってあるのか?
そしてそんなすぐにゴミ箱を疑い、探し出してくるなんてありえるのか・・・?

いやな予感がして、そしてそれはすぐに確信へと変わった。

「ねえ、大事な話があるから聞いてくれる?」

やめろ・・やめてくれ・・
私はその話を聞く訳にはいかない・・・。

「実はずっと好きだったんだ。俺と付き合ってほしい」

あああああああああああああああああああああああああああああ

いくらネットの世界とは言え、こうならない方が不思議なくらい、彼の行為は自然だったと思う。
3年間ずっと一緒に遊んでいて、それが凄く気の合う異性だったのなら、こうなって然るべきだ。

だが、私はネカマで、本当は男なのだ。ずっと言えなかったけど、男なんだ。
私の頭は真っ白になり、しどろもどろでもがいていた。

私は断るしかなかった。断るというか、関係をリアルに発展させるわけにはいかなかった。
私は男だ。ずっと嘘をついている。付き合う訳には当然いかない。

もちろん、彼も男と付き合うことなどこれっぽっちも望んではいない。
彼は本当に不幸であり、私はとんでもなく最低なやつだった。

私が断り続けていると、「くっ、なかなかしぶといな」と彼は言った。
その言葉から、たぶん彼はOKをもらえると思っていたんだと推測できる。
そりゃあれだけ仲が良かったんだ、手応えはある程度あっただろう。

勇気を出して彼は告白してきたのに、私にはどうすることも出来なかった。
ここでカミングアウトすれば、彼はどんな反応をするだろう。
今まで3年間ずっと女性だと思って接してきて、ゲームする時はずっと一緒だった人が、急に男だとわかったら、どう思うんだろう。
考えただけで、恐ろしかった。

私は自分がとんでもないことをしてしまったということをこの時、やっとわかった。
自分で自分の首を絞めていることに気づかず、安易な嘘をつき騙し続けたこの3年間に目眩のするような後悔を覚えた。
こうなることを考えもしなかった自分の愚かさを呪った。

どうやってその日、彼と別れたかまったく覚えていない。
あれだけ愛着のあったキャラクターが、嘘で固められた悪魔のように、こちらにニッコリと微笑んでいるように見えた。

あまりの罪悪感から、それから私はゲームにINしなくなってしまった。
本当の自分のキャラクターは自分で自分の首を絞めて死んでしまった。

彼はその後、どう過ごしたのだろう。突然いつも一緒に遊んでいた人がいなくなってどうしたんだろう。

実は男だったのかと感づいたかもしれない。突然INしなくなったせいで、何かあったのかと心配させたかもしれない。
あの頃やっていたブログも、その時にぱったりと更新しなくなってしまった。携帯に連絡が来ることもなかった。

彼を傷つけたことは間違いないだろう。

今でもそんな彼のことを思い出すと、罪悪感と後悔の念で胸が締め付けられるように痛む。
だけど、あの頃の私にはどうすることも出来なかった。
秘密をバラすことも、そのまま嘘を貫き通すことも、もちろん付き合うこともだ。

あの楽しかった日々が、一瞬にして崩壊してしまったネカマという行為の代償。
バレなければいい。たしかにその通りだ。ネカマとは無償の夢を与えられる存在かもしれない。
しかしその先にある道、その結末を考えると、私は暗くなるほかないのだ。

「たかがネットの世界」「たかがゲーム」と考えることもできるだろう。そこにあるのはリアルとは違った別世界。
だがしかし、リアルもゲームも、同じ”人”が感情を持って、その環境に身を委ねている。双方まったく世界は違えど、本質は同じなのだ。
だからこそ、どちらもそこで関わる人の心境に配慮しなければならない。
「自分さえ楽しければ、それでいい」訳ではないのだ。

私は、あんなにも気が合って、楽しくゲームできた日々を過ごさせてくれた彼を、素晴らしく稀有な存在だと思う。
だからこそ、彼を傷つけてしまい、その上関係が崩壊する悲劇的な結末になってしまったことが、本当に悲しい。

もう戻れない今は思い出。ただただ懐かしい。

3件のコメント

悲しいですし罪悪感はありますよね。

私はネカマをやっている訳ではないのですが、女性によく思われてしまうようで罪悪感はあります。ですがあえて性別を明かすという変な行動も取りませんしどちらか分からないようにチャットしています。暴言を避けると丁寧語になってしまうので自然とそうなりますね。

性別は先入観でコミュニケーションの壁になってしまうので勿体無いですし基本的にどちらでもいいから触れません。しかし長く仲良くしていると言う日がいつかくる時が来てしまいますよね。そんな時どうすればよいか悩んでいます。女性に思われるので男性相手ならばブログ主さんのように、女性相手ならば女友達と思っていたのにと傷つけてしまうかもしれませんね。私自身は基本相手の性別を意識していないのでどちらでもよいですが相手はそうとも限らないですし難しいですね。かと言って最初から性別を名乗るのも納得はできません。
結局何が言いたいかと言うとこの罪悪感を吐き出したかったんだと思います。失礼しました。

今の自分と重なっていて、そう彼は本当に不幸という言葉が胸に突き刺さってしまった。
私も自分好みのキャラで女の子を作りました。
そのゲームはチャットだけでVCなんて使わない人がほとんどのゲームです。
もともとコミュ症気味なところがあり、そこが逆に大人しい女の子と見えたらしく、そのゲームの大手ギルマスからギルドに誘われ、ギルマスに告られ、その後VCに誘われるという修羅場を2回経験しています。チャットだけだと思い、、ノリで付き合ってしまったのが運の尽き…
結論からいいますとまだ深い関係ではないが、これからヤバイということです。。。
自分もこれから別ゲーでは男キャラを使うか、
女の子キャラを使うときは初めに言うようにします…ただただ申し訳ない気持ちでいっぱい…
そう一線は超えてはいけないあなたは正しかったのだと私は思います。女の子キャラ可愛から使いたい気持ちすごくわかる!!わかりますよ!もう男で我慢するか早期カミングアウトしましょう
自分は今こう考えています。今から別アカウントを男キャラで作ろうと!かなり育成してるがこれ以上は限界です…

題名を見て面白うそうだなと思い読みましたが、、、深い。
自分はこんな経験は全くないけど、ゲームでは基本女性キャラを使うので気を付けます。
よくわからないけど読んだ後心臓がバクバクしました。

匿名 へ返信する コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です